2017.06.13

【ボリュームディスカント、再び】

久し振りに翻訳ネタです。以前、ボリュームディスカウントの打診があり、失敗した経験を記事にまとめましたが、最近またしてもボリュームディスカウントの打診があったので、そのときのお話をご紹介したいと思います。

先の記事では、ボリュームディスカウントを固辞し、結局受注し損ねた上にその後の取引関係もギクシャクしたものになってしまったと書きました。普通なら、「こんなとことはもう絶対に一緒に仕事なんかするもんか!(プンプン!)」となるのですが、時間というのは偉大です。このときの怒りも収まり、冷静に振り返れる時期が来たときにフト思ったのです。

1) レートも悪くない(いやむしろ良い方)
2) 分野も得意なもの&興味があるものが多い
3) CATツールのサポート体制も整っており、メールのやり取りも常に迅速
4) 支払いが遅れたことは一度もない
5) かなりまとまった量の打診がある
6) 納期も相談にのってくれる

こんな取引先、そうそうありませんよね?そして非常に不愉快な思いをしたのは、何人もいるPMさんやコーディさんのうちの一人に過ぎません。取引回数は激減しましたが、この取引先とはその後も細々と取り引きを継続していました(件のPMさんから、打診が来ることはなくなりましたけど…)。

そんな折り、今年の始めにプルーフリード案件の打診がありました。ワード数は8万ワード弱。

プルーフ案件の鉄則として、まずは仕上がっている翻訳をザッと見させていただきましたが、大きな問題はなさそう。納期もわりと融通がきくとのこと。

「よーし、やるかー!」と思ったところで、まさかのボリュームディスカウントの打診。ちょっと暗雲が立ち込めましたが、同じ失敗は繰り返したくありません(まとまった分量の案件を受注し損ねるのは、売り上げ的にもイタイですからね)。

分かりやすいように数字でザッと表すと以下のような話でした。
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【標準単価】
0.04 EUR x 80,000w = 3,200.00 EUR

【ボリュームディスカウント(10%)】
0.036 EUR x 80,000w = 2,880.00 EUR

【差額】
320. 00 EUR
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正直、悩みましたが、今回は引き受けることにしました。その理由は以下の2つ。

1) 翻訳の質に大きな問題がなかった(つまり、手直しに要する時間がそれほどかからないと判断した)
2) 支払い方法を Paypal から口座への送金に変更してもらった
1)は、まぁ分かりやすいですよね。プルーフリード案件の作業時間は、翻訳の品質に大きく左右されます。「こんなの割に合わない」とか「引き受けなきゃよかった」なんて声を時々耳に(いや目に)しますが、翻訳の品質が低ければ地雷案件になる一方で、質が良いものは作業時間も少なくて済む上に上手な方の訳文は参考になります。

2)ですが、この取引先は昨年から、支払い方法がPayalの一択になりました。そして、この企業、Paypal上では支払人としてのステータスが「認証されていません」になっています。この場合、支払いを受け取る際に約4%の手数料が差し引かれることを意味します。

つまり、標準単価で受注したとしても、「3,200.00 EUR」を受け取るためには「128.00 EUR」の手数料が自動的に差し引かれます。
そこで、私の方からは今回は10%のボリュームディスカウントを受け入れる代わりに、Paypal 経由ではなく、口座送金に変更して欲しいと依頼しました。口座送金の場合、通常は金額に関係なく(*今回程度の金額の場合)、取引回数で手数料が差し引かれます。今回で言うと、手数料は「2,451円」でした。

ボリュームディスカウントの差額だけを見ると、【320. 00 EUR】と決して安くはありませんが、結果的には、

【320. 00 EUR -128.00 EUR = 192.00 EUR 】

ということで、10%のディスカントから約6%のディスカウントに抑えることができました。

でも、実際に引き受ける際には、時々お仕事を一緒にさせていただいている先輩翻訳者さんに相談して、以下の言葉に背中を押されたのでした。

>>大体、単価の交渉ができそうかどうかは、相手の出方を見てれば雰囲気でわかると
>>思うんですよ。
>>ブログも拝見しましたけど、~中略~、十把一絡げにこうすべき、というのをガーンと
>>提示されてもねえ。やっぱり信頼関係を築くことが一番だから、信頼関係が
>>できるまえにそれをやっちゃまずいですよね。
年がら年中、割引きの話を持ち出してくるような取引先はゴメンですが、定期的に取り引きがあるところとは、このような「例外」もありかなと思った次第です。

ボリュームディスカウントなんて(翻訳の世界では)あり得ない!」という姿勢でお仕事をされている方も少なくないと思いますが、私にとって、「ボリュームディスカウント」は状況や条件によっては「アリだな」と思った出来事でした。

補足しておきますと、何故先方は「ボリュームディスカウント」を持ち出したのでしょうか?はっきりと聞いたわけではありませんが、恐らく「同一案件をある一定日数継続して作業することは、作業速度が徐々に出る」という理由だったのではと推測します。

そして、その見込みは本案件については的中しました。実際のところ、作業開始前に見込んでいた作業時間の約半分の時間で作業を終えることができたのですから。