2016.05.29

【「謝罪はしません」という条件で請けた仕事の話】

普段は、音楽的にもファッション的にも「流行」とは縁のない世界で日々過ごしていますが(笑)、数日前に目にした「謝罪はしません」という言葉に反応して、「海外の取引先って、支払いとか心配じゃありませんか?」とか「どうして、海外の取引先がメインになっていったのか?」について書く前に、先にこちらの記事をアップします。

===================================================================

数年前、懇意にしている米国の翻訳会社からメールで打診がありました。
話を聞いてみると、

「ある案件で、他の訳者さんに担当してもらったファイルを納品したところ、その出来にお客様が憤慨している」

とのことでした。

早速、納品されたファイルを参考までに見せてもらったところ、「うーーーむ…」という印象を受けました。で、「最初から翻訳をやり直して欲しい」という依頼かと思いきや(こういう依頼は時々舞い込みますので)、

「お客さんが製品について(翻訳者に)説明したいというので、行って話を聞いて来てくれないか?」

という依頼でした。

お客様は、米国に本社を置くある検知器メーカーで、その支社が当時、私が住んで居た場所からそう遠くないところにあったのです。
最初は、お客さんがカンカンに怒っているだろうから、あまり気乗りしませんでした。だって、自分が担当した仕事に落ち度があって、話を聞きに行くのならまだしも、知らない方が訳して問題になっているわけですから・・・。

でも、よくよく話を聞いてみると、

「製品の特性上、きちんと機能を把握し、必要とされる基本情報を翻訳する前に翻訳者さんに知っておいてもらいたい」

とのこと。

それなら、というわけで「謝罪はしません」という条件付きで引き受けたのでした。

結局、この「講義」は3時間強に及び、何台もの実機を手に取りながら、時にはホワイトボードを使用して、みっちり教育していただきました。そして帰り際、「不明点は直接教えますので、いつでも連絡してください」とのお言葉をいただきました。

=====================================================================

お客様の方では、この翻訳をもとにカタログを作成し、日本国内でビジネスを展開していくと考えており、翻訳の品質にこだわるには当然のことでしょう(ちなみに、この担当者の方、英語力はネイティブ並みだったと思います)。

一方、翻訳者の方も、「いいもの(お客様が満足して喜んでくれる翻訳)を提供するために最善を尽くす」べく日夜奮闘しています。

でも普段、この両者が顔を合わせる機会ってほとんどないんですよね・・・。 

結局、この案件は数か月に及び、メールも大量にやり取りしました。最後にお客様からお礼のメールをいただいた際には、心底肩の荷が下りた記憶があります。
=====================================================================

この出来事を通じて私はあるエピソードを思い出していました。それは、ずっと師事していた(いる)先生が話してくれたものです(時期は忘れました…)。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『(当時の海外の人から見て)日本の製品はexcellent (申し分ない)、
デザインはgood (まずまず)、
だがマニュアルはJoke (笑えない) だ』

*赤字部分は私が勝手に解釈しました
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
佐藤先生は、講義の際、ことあるごとに自らの師である故・水上龍郎先生のお話をしてくれました。これもそのうちのエピソードの1つで、お話を伺って以来、ずーーっと私の心の中に残っています。
ちなみに翻訳仲間のDKチームでは、時々「見てよー、この翻訳!」的な小話や写真を共有しています。

想像してみてください。

一流の化粧品の宣伝文句が「トホホ」の出来であった場合、消費者はその商品に対してどのような印象を持つでしょうか?おそらく、その商品に対するイメージはガタ落ちです。
上記の水上先生の言葉は、日本の製品を輸出し海外のユーザーなどが使用した際の率直な感想だと思いますが、これは、欧米の製品を日本に輸入するときにも当てはまりますよね。
私も以前、翻訳会社に発注する立場にいた時期がありますので、どのプロジェクトも「予算」の上に成り立っているのは百も承知しています(そして、この翻訳費が往々にして軽視されがちな傾向にあることも…)。それでも、やはり翻訳にかける費用は他の費用と同じくらい重要な要素の1つであると認識して欲しいなぁと願うばかりです。

最後に。個人的には、今回紹介したような「翻訳者」と「発注者」がつながる機会がもっともっと増えればいいなと思います。 

ps. (佐藤先生には転載の許可をいただきました。先生、ありがとうございます!)