2016.11.01
【翻訳学校では教えてくれない翻訳者に求められるスキルとは?】
前回の記事で「いくら高品質の訳文を提供できても、作業指示を守れない翻訳者は不要」と書きましたが、ピンと来る方、ピンと来ない方、きっとそれぞれだと思います。
では、翻訳業に従事する方にお尋ねします。
「あなたのお仕事は、サービス業ですか、それとも専門職ですか?」
答えは、簡単です。
「人それぞれです(きっと)」
私?
あー、もうそんなのコンマ5秒で即答します。
「サービス業です」と。
翻訳と一口に言ってもその業務内容はかなり多岐に渡ります。また、この業務への携わり方も千差万別です。だから、自分と違う意見を持つ人が居ても全然不思議ではありませんし、反論する気もありません。
でも、私にとってこの仕事は「サービス業」以外の何物でもありません。昔は、「高い翻訳スキルがあれば食っていける」と勘違いしておりましたが、「それだけ」じゃダメということを痛感させてくれたのは開業前に受講していた佐藤洋一先生の「オンラインOJTコース」でした。
私はオンラインOJTコースの第二期生として、2005年8月から2006年12月まで同講座を受講しました。この講座は、毎月「英日」、「日英」の課題が送られて来て、期日までに提出すると、先生が添削してくれるというシステムでした。
受講者は当然私のように、「翻訳スキルを磨く」ことを前提にしていた方が大半でした。
が、この講座は翻訳学校のソレとはまったく性質が異なるものでした。「課題が送られて来て、添削してもらう」という点では同じでしたが、「課題の提出方法」にも重点が置かれ徹底されていました。
どういうことかと言うと、課題提出時のルール(メールの件名や納品ファイル名など)が守られていない場合、添削対象外となることもあった点です。
また、不定期でOJT案件の募集もあり、複数の受講生で実際の案件に翻訳者として参加できる機会もありました。OJTとはいえ、お金をいただくわけですから、れっきとした仕事です。
あるとき、先生はあるOJT案件での出来事をもとに、受講生全員にこんなことをおっしゃっていました。
「翻訳の品質に関するフィードバックには、皆一様に真摯に耳を傾ける一方で、スタイルガイド違反など、翻訳作業以外の点で不備があったと言うと、ほっとする方がおられるようですが・・・・」
といった内容だったと記憶しています。これは、当時の私の胸にもドキン(死語?)と来ました。
何故、先生はこんな意地悪・・・、もとい、細かなルールを設けたのでしょうか?
理由は簡単です。この講座では、翻訳スキルを磨くのに加え、フリーランスの翻訳者としてどのように仕事に携わっていくのか、その姿勢を学ぶことを主眼としていたからです。
つまり、こうした細かい作業指示は普段の取り引きでは日常茶飯事であるということです。
それから時は流れ、開業して自分で仕事を始めてみると、なるほど正しく先生のおっしゃった通りでした。分野により状況は異なるかもしれませんが、私が主に取り扱う技術文書関連の案件、CATツール指定案件では、作業指示がない案件の方が珍しいくらいです。
もちろん、今でも「作業指示がなければ、本当はこう訳したい」と思うことも時にはあります。でも、そんなときは「誰のために」訳しているのかを意識するように心掛けています。だって私にとって翻訳というのは生業であり、お客さんが居て初めて成立するものですから・・・。