2016.09.09

【自分を安売りして、得意分野の案件を請けた結果…】

フリーで仕事をしていると、日常的に取り引きをしているお客様以外からもアレコレと打診があります。でも、不思議なもので、仕事が重なるときは重なる一方で、来ないときは本当に来ません。今日はそんなときに請けて失敗したお話です。

私の場合、日本国内にとどまらず、欧米の翻訳会社とも日常的にやり取りしています。ここ数年は、ありがたいことにこちらから仕事を取りに行かなくても、声をかけてもらえる機会が増えてきましたが、今から5~6年程前のことでしょうか、パッタリと仕事が来なくなったときがありました。

そんな日が数日続いた後、あるサイトで得意分野(某製品の取扱説明書)の英日翻訳者の募集を目にしました。

「おっ!」と思って早速応募しようとしましたが、単価を見て驚きました。だって、1 word 当たり、0.06 USD と記載されていたからです。以前の記事でも書きましたが、私は 以下のサイトを参考に、1 word 当たりの標準単価を 0.15 USD に設定しています(あくまでも、「標準単価」です。プロジェクトの諸条件により変動します)。

英日標準単価(Rates for Translation | PRoZ) 

「0.06 USD」というと、ちょうどレビュー(プルーフリーディング)用に設定している単価です。

というわけで早速、初取引となるかもしれない先方の PM さんに連絡してみました。こういう時はいつも直球です。単刀直入に、

単価が低すぎるので、もう少しどうにかならないでしょうか?」

と尋ねてみました。

結果は、「No (どうにもならない)」とのことでした。

しかし、この時点で手持ちの仕事がなく、次の仕事がいつ入るとも分からない私はあることを思いつきました(ちなみに既に原稿内容は確認済みです)。

それは、

単価が半分なら、作業速度を二倍にしたら、いいんじゃない?」

我ながらなんという名案…いや浅はかな考えでしょう(→今ならそう断言できます)。がしかし、当時は真面目にそう考えていました。

そこで、この単価を受け入れる代わりに、納期を通常の二倍に設定してもらいました。何故かって?フリーの方なら、お分かりになるかもしれませんが、この仕事はあくまでも他の仕事が入ってこない時間を利用して作業しようともくろんだのです。
というわけで、通常であれば10日ほどの納期の案件を20日後に納品という条件で受注したのでした。
で、結果どうなったのかと申しますと。

最初の数日は、他の仕事の引き合いも入らず、集中してこの案件に取り組んでいました。作業速度は二倍をメドに進めていました。が、数日すると、いつもの取引先からいつものように仕事が入ってくるようになりました。当然、標準単価の仕事を優先します。で、この大安売り案件は放置状態が続きます・・・。
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勝手なもので、一度自分が納得して引き受けた案件にもかかわらず、標準単価の案件がまた舞い込み始めると、この大安売り案件に対するモチベーションが戻ってくることはありませんでした。

でもだからといって、「納期を守らない」、「手を抜く」わけにはいきません。大安売りしたのは、あくまでも私の責任であって、仕事を発注してくれた取引先(およびPMさん)にはなんの落ち度もありませんから。

というわけで結局、納品前の4~5日間は標準単価の仕事を泣く泣く断り続け、なんとか自分のお尻を叩いて納品にこぎつけたのでした。

その後、件の取引先から「続編」の案件の打診が来ましたが、単価は据え置きだったため、丁重にお断りしたのでした。

もちろん、今でも仕事が途切れることはあります。でも、そんな日は以前よりは1つでも2つでも賢く過ごしたいものです。

師事していた佐藤(洋一)先生は、「仕事が途切れたときは、慌てたりせずに次の展開に備えるとき(チャンス)です」とよくおっしゃっていたことを思い出しました。